応能負担の“その先”にある現実

税理士の田辺亮介でございます。

税金は「担税力に応じて負担する」という応能負担の考え方が基本です。 高所得者ほど多く負担する——これは制度として合理的です。ただ、実務の現場で見えてくるのは、単なる「税率の高さ」では語りきれない現実です。

まず、高所得になると「使えなくなる制度」が増えていきます。

  • 住宅ローン控除が使えない
  • 配偶者控除が使えない
  • 基礎控除が段階的に消えていく

これは前提としてよく知られていますが、実はこれにとどまりません。

  • 児童手当や教育支援
  • 高校無償化や給付型奨学金
  • 保育料の軽減措置

こうした“社会保障寄りの制度”からも外れていきます。つまり、「税金は多く払うが、受けられる支援は少ない」という構造です。

さらに、社会保険料の負担も無視できません。一定の上限はあるものの、それまでは所得に応じて増加します。
特に法人オーナーの場合、

  • 役員報酬を上げると社会保険料も増える
  • 同時に高い税率がかかる

結果として、「稼いでも手取りが思ったほど増えない」という感覚になります。

そして、意思決定にも影響が出てきます。

  • これ以上稼いでも手取りがあまり増えない
  • 節税を優先した判断になりがち
  • 本来不要な支出が増える

本来は事業の成長や投資で判断すべきところに、 税負担が影響を及ぼし、経済合理性が歪む場面も出てきます。

実務上のリスクもあります。
高所得者は、

  • 取引規模が大きい
  • 資産移転(贈与・相続)が多い
  • 節税策を講じる機会が多い

といった理由から、結果的に税務調査の対象になりやすい傾向があります。

加えて、資金繰りの問題も地味に効いてきます。

  • 予定納税
  • 中間納付
  • 翌年の住民税

「稼いだ後に遅れてくる税負担」が続くため、 高所得になるほどキャッシュアウトのインパクトが大きくなります。

そして最後に、象徴的なのがふるさと納税です。

数少ない“コントロールできる制度”として活用されますが、 高所得者ほど上限が大きいため、やり過ぎてしまうケースもあります。結果として、

「節税のつもりが一時所得で課税」

という、本末転倒な事態も現実に起きています。 本人にとっては、決して笑い話ではありません。

応能負担という考え方自体は、社会を支える上で不可欠です。 ただ、その実態は「税率の高さ」ではなく、 制度全体による“負担の累積”として現れています。

  • 税金
  • 社会保険
  • 控除や給付の制限
  • 意思決定への影響
  • 資金繰り負担

これらが重なったとき、納税者の感じる負担は、 単なる数字以上のものになります。

税制における「公平」は重要です。 しかしその公平さが、必ずしも納税者の「納得感」と一致するとは限りません。現場で起きているこうした違和感こそ、 これからの税制を考えるヒントなのかもしれません。